現代に過去をどうやって活用するかが大切 [社会探究領域 春日あゆか先生]

こんにちは!

今回は、飛翔97号の記事からです。

今回紹介するのは、総合科学科 社会探究領域 地域研究授業科目群 春日あゆか先生です。

春日先生は、主にイギリスの大気汚染の歴史について研究しておられます。

研究紹介

ー先生の研究内容を教えて頂けますか。

イギリスで産業革命が起こって、石炭を大量に使うようになったのはみなさんご存じだと思います。その過程で、石炭による大気汚染が深刻になりました。イギリス社会はそれを解決しようとしたんですが、なかなかできなかったんですね。イギリスの大気汚染の歴史ってかなり古くて、17世紀ぐらいから問題になって、19世紀初め深刻化して、いろいろ対策をするんですけど、石炭由来の大気汚染が本当に解決していくのは、20世紀の半ばなんですね。合計で1世紀半くらいの期間は、かなり深刻な大気汚染の影響を受け続けるんです。なぜ対策が進まなかったのか。それを考えた時、今の気候変動と似てるなと思う点もあり、今の環境問題に役に立つのではないかと思って、研究しています。具体的には、技術的な解決策が提案されたときに、技術をどう評価していくかという問題などを研究しています。

ー研究を始められたきっかけは何だったんですか。

研究を始めたきっかけは、実際には、今言ったようなものではないんです。元々私は総合科学部みたいな総合系の学部出身なんですけど、そこで入った環境政策のゼミの先生が途中で大学院に移ってしまって、国際関係のゼミの先生の所に行くことになって。そしたら、そこでちょっと歴史的なことを学ぶようになっておもしろいなと思って。あとは留学もしたいなと思っていて。初めは、環境政策や開発政策に関連した国際機関に将来的に勤めたいなあとか考えてたので。今、全然違うことをやってるんですけどね。学ぶ間にやりたいことが変わってきたんで、環境史のコースに留学しました。留学先がイギリスだったので、その時にイギリスのことをやろうと。キリスト教文明が環境破壊の元となる思想だったと書かれている有名な論文があって、なんかそれおかしいなと思っていたんです。突き詰めれば、キリスト教が工業化の源泉だったという考えになり、それはつまり他の地域が劣っているという考えにつながる可能性がありますよね。それを反証するために、ヨーロッパでもかなり初期の環境問題の一つであるイギリスの大気汚染問題を調べようと思ったんです。でも、今思えば、当時からその論文に対しては十分に批判がされていたなと思います。今は、同じ研究対象を別の側面から研究しています。

ー先生が留学に行かれていろいろ環境問題とかを調べてみたいと思ってから今まで、環境問題についてずっと研究を続けていらっしゃるのは、何か理由や原動力みたいなものがあるんですか。

現実的には、研究者が一回テーマを決めるとなかなか変えるのは難しいっていうのが一つあるんです。もう一つは、私は原発立地地域の出身なんですよ。なので、環境問題に関して元々関心があるっていうのはあると思います。

ーイギリスに行かれる時はどのようなことをされるんですか。

そうですね、知らない人からすると不思議ですよね。日本でもそうですけど、すごく古い文章を集めておく史料館とか文書館みたいなものが整備されてるんです。日本に比べて史料管理の面ではイギリスはかなり力が入れられています。ロンドンや地方に行って、その古い史料の写真を撮ってきて、研究に使っています。

研究を行う上で大切にしていること

現代に過去をどうやって使うか、活用できるか

ー研究を行う時に何か心がけていること、モットーはありますか。

私はもともと歴史研究者になろうと思ったわけじゃないんですね。多くの歴史研究者はちゃんと文学部で教育を受けていて、歴史がもともと好きなんです。だけど、私は全然違っていて、総合系の学部で環境問題をやりたいと思ってたんです。だから歴史が根本的に好きっていうわけじゃないんですね。今までは、ちゃんと歴史研究者にならなければと思って、歴史研究者が好む問いの立て方をしようと思ってたんですけど、最近は開き直っています。私が関心があるのは、「過去をどう使って、現代に活用できるか」ということです。歴史研究者ってそういう面では慎重な人が多いんですよ。なぜかっていうと、過去って、現代と違うからです。政治体制とか、経済状況とか、あらゆるところが違うので、完全に参考することはできないんですよね。その慎重さも参考にしつつ、歴史、過去を今のために参考にするっていうのは、どうやればできるのか考えていきたいです。

ー繋がりを作って研究に生かすみたいなことはあるんですか。

私でもそれは苦手な方です。色々な研究者同士の繋がり、特に国際的な繋がりを作って共同研究していくことが今の研究の世界では重要です。ただ、ヨーロッパ系の研究者と仲良くなるのが私にはすごくハードルが高くて。日本だったらまだ初対面の関係者とも話を気軽にできる側面はあるのですが、ヨーロッパの学会とかに行って、話すときは結構大変です。話すだけで大変なのに、そこからさらに仲良くなって、さらに研究に活かすというのは、私には難しいなと思って、それをどうやっていくかっていうのは今後の課題です。

ー教える立場の時に心がけていることとかありますか。

教えることは今、試行錯誤中です。私は教養英語と専門科目を教えています。英語については、英語教育の学位を持っているわけではないので、これまで英語を学んできて、今も学んでいる私の立場から伝えられることを伝えようと心がけています。他にも、非ネイティブだけれども英語がうまい留学生にスピーキングの授業に来てもらうことで、会話の機会をなるべく設ける工夫をしています。専門については、歴史にいかに興味を持ってもらうかの試行錯誤中です。総合科学部の学生さんって、歴史に興味が無い訳ではないのですが、専門として深く学びたいっていう人はあまりいないようです。自分もそういう学生だったのでその気持ちはわかるんですけど。そういう学生に伝えるには、現在とのつながりを示すことが大事だと思うので、それが授業で出せるように工夫したいと思います。

ー先生が考える総合科学部の強みって何だと思われますか。

自分自身が学際的な学部を転々としてきたので、学際的な場所で学ぶというのは、どういうことかと考える機会が多くありました。学部を卒業した直後は、専門性が全然深まらなかったというマイナス面はあるとは思ったんです。でも、今思うと、大学の専門性って人生に必要な人もいるけれど、それほど必要ない人もいて。人によってはそんなにマイナスではないな、と思います。一方、いろんな考え方に触れるというのは、それはそれで役に立つことだと思います。人文学の知識が、どういうふうに社会で役に立つかっていうのは人によって意見が違います。私は法律とか社会学とか、比較的実用的な分野の知識に加えて、人文学の議論も知っておくことで、より実学系の知識を有効に活用できると思っています。それができるのが総合科学部かなと。

学生へのメッセージ

可能な範囲で挑戦して、時には失敗をしてみる

ー広大、総科生に教えていて、何か思い出や印象深いことはありましたか。

真面目だなって思う人は多いです。たまに他の先生もおっしゃるんですが、割とシャイというか、あまり自分の意見を言いたがらない学生がそれなりにいます。私なんかはわりと言うタイプなので、それを強く感じるのかもしれません。いつもと違うことをするのは勇気がいりますが、やってみたいとか言ってみたいことは一度やってみるのもいいと思います。失敗って結構役に立つこともあるんですよね。もうこの失敗しないでおこうとか。私の人生は失敗の連続で、恥ずかしい思いもいっぱいしたんですけど、その分今は、生きやすいと感じる部分も多いです。だから学生さんは、自分の精神状態と相談しながら可能な範囲で挑戦して、時には失敗をしたらいいのではと思います。例えば、授業やゼミでの発言もやってみてうまくなるものだと感じています。発言して違ったなと思えば、次はこういうことを言えばいいのかと考えることもできますし、他の人が発言している間にいくつか質問の候補を考えておいて、その中でベストなものを言うといいだとか、一度挑戦しないと分かんないんですよね。こういう練習を学生の間にしてみてはと思います。

ー高校生に向けて、メッセージを頂けますか。

高校生が考えるキャンパスライフという観点では、コロナの影響でオンライン授業が多くなるなど、コミュニケーションが大変になっています。私の経験から考えても、大学生の間に授業以外の場で学ぶことはとても多いので、今の大学生には影響が大きいと思います。ただ、コロナで情報インフラの普及が進むなど大きな変化がおこることは確実で、その状況に前向きに対処していくことができれば、将来にもきっと役に立つと思います。受験に関しては、英語の知識など大学入試のための勉強で今役に立っていることもあるので、そういう意味でもがんばってほしいです。

小さい実践の積み重ねが数年後には大きな変化になる

ー最後に、総科生に向けてメッセージを頂けますか。

アルバイトやサークル、部活動では色々挑戦をしている人も多いと思うのですが、大学の勉強でもチャレンジしてみてほしいです。私の経験では、小さい実践の積み重ねが数年後には大きな変化になっていたりします。

編集員から

関心をもったことに対し、失敗を恐れずに取り組むことで成長できるという言葉が心に残りました。

学生生活において興味のアンテナを立てさまざまなこと挑戦していきたいと思いました。

それでは今回の記事はここまでです!次回の更新もお楽しみに!