私たちの先祖とは?【自然探究領域 彦坂 暁先生】

こんにちは!本日は95号先生インタビュー第5弾!

総合科学科 自然探究領域 生命科学科目群 彦坂 暁先生をご紹介します!

彦坂先生の専門は生物学。中でも、動物の進化について研究をしていらっしゃいます。

私たちの先祖を遡ると、猿、爬虫類、両生類…という風になっています。しかしそのさらに前に先祖はなんだったのでしょうか?

そんなお話を伺うことができました。生命の神秘についてのお話、ぜひご覧ください!

私たちの先祖とは…?

ーまず先生の現在の研究テーマについて教えてください。 

広く言えば動物の進化について研究をしています。具体的に言うと、我々人間の先祖をどんどん辿っていくと、例えばお猿みたいな形をしていますよね。もっと辿ると爬虫類とか両生類みたいになります。カンブリア紀までさかのぼると、今でいえばお魚みたいな先祖がいただろうというところまでは化石を調べるとわかるんですね。でも、そのさらに昔の先祖がどういう形をしていたかわかりますか?   

小さい微生物みたいなやつですかね・・ 

そうなんですけど、その本当のかたちとかどういう暮らしをしてたかとかはたぶんまだ世界中の誰も知らないことなんですね。それを知りたいというのが一つの大きな動機ですね。
今僕が研究しているのは、人間が左右対称になり始めた頃の姿です。僕らは体が左右対称ですよね。一方クラゲやイソギンチャクなんかは左右対称じゃないよね。進化のある時点で、動物が左右対称な体を獲得したときがあるんですね。左右対称になるとなにがいいかというと、前と後ができて、背中とおなかができる。それに対してクラゲとかイソギンチャクとかはあんまり激しく動かないよね。だけど左右対称になって、頭や脳ができてそこに感覚器みたいなのができる。それからおなかと背中ができる。そうすると、例えば這って動く際に、おなかを海底とかにつけて前に向かって這うみたいに動けるからすごく運動性が上がるんですね。だから最初に左右対称になった先祖がどういう姿をしていたのかが知りたいなということですね。だけどなかなか化石はでないんですよね。だから今生きている動物を調べることでその姿がわからないかということを考えています。その材料として、無腸動物という動物のグループがいて、もしかしたらそれが、僕たちの遠い祖先が左右対称になったころの姿を今にとどめている可能性があるといわれています。無腸動物は今でも採集できるので、それを調べています。 

無腸動物は食事はできるんですか? 

腸がないっていうんですけど、一応食べることはできます。つまり僕らみたいなちゃんとした腸じゃない消化器官があります。僕らは、口から入ると胃があって腸があって、基本的に口から肛門にかけての管状になっていますよね。そういう管状の腸が無腸動物にはなくて、ただものを捕まえて消化するような組織はあるとういうことですね。 

トランスポゾンって?

先生は学生時代から現在のような進化の研究をしていたのですか?  

大きく言えば進化の研究をしたいと思ってやってきました。でも材料はいろいろ変わりましたね。大学院生のときは「ホヤ」について研究しました。日本にでは東北地方で養殖されていて、マボヤっていいます。我々にとっても近い仲間で、卵からうまれたばかりの時はオタマジャクシみたいな形をしています。これが何日かしばらく泳いで、その後岩とかにぺたっとくっついてそのまま生活を始めるんですね。 

ーどうしてホヤに興味を持ったのですか? 

大学院の研究室がホヤを使って研究していたんです。大学院生時代は発生学(卵がどうやって親になるのかという発生の仕組みを調べる学問)に没頭して、ホヤのしっぽにある筋肉が、どういう仕組みでできるのかを調べていましたね。広大に就職してからは、アフリカツメガエルの研究をはじめて、最初はカエルの変態の研究をしていました。研究を続けているうちに、たまたまカエルのトランスポゾン(生物のなかにある染色体から飛び出し、別の場所に入る動く遺伝子)を見つけたんですね。それからトランスポゾンと進化の関りの研究を10年以上続けた後、無腸動物の研究を始めました。 

トランスポゾンについて詳しく教えてもらえますか?  

トランスポゾンは、例えばカエルならばカエルにとって何の役にもたたないもので、要するにウイルスみたいなものです。感染してきて寄生しているような遺伝子です。宿主の中で勝手に増えるため宿主にとってはあまりうれしくない迷惑な遺伝子なんですが、それが時々宿主にとって役に立つように進化をするんですね。今まではよそ者で何の役にもたたずにむしろ迷惑だったものが、居候しているうちに何かの拍子で宿主にとって役に立つものに進化して、宿主と共生を始めることがごくたまに起こります。僕が見つけたその遺伝子はカエルにとって役に立つように進化した遺伝子だと言えますね。その「役に立っている」ということはどういうことかを研究していますが、まだはっきりとしたことは分かっていません。 

「遺伝子が動く」というのはどのように動くのですか?  

トランスポゾンは普段は宿主のDNAに大人しく入っているんですが、たまたまある時にある場所から切り出されて、別の場所に移動します。ストレスがかかるとトランスポゾンが動くという研究もあります。元々の場所に残ったまま移動する、つまり自分でコピーを作って移動することもあります。移動するだけでなくコピーがどんどん増えていくんですね。 

ーヒトでトランスポゾンがみられる例はありますか? 

ヒトのゲノムは半分くらいトランスポゾン由来の配列だと言われています。しょっちゅう入ってきては増えていて、ゲノムがどんどんトランスポゾンで満たされていくイメージです。何千万年というスケールでどんどんゲノムを書き換えていきます。DNAは親から子、子から孫というように垂直にどんどん伝わっていくというイメージがあるけれど、それだけではありません。生物には外からいろんなものが入ってきているというのが実は正しい姿です。そういうものが入って来た時に何が起こるのかも知りたいですね。 

科学とは『真理を見つけること』

ー先生が学生時代に取り組んだことは何ですか? 

先生:京都大学に通っていて、授業には適度に出席しつつ古本屋に通っていました。本が好きだったため、古本屋を巡っては本を買って読んでいましたね。他には映画館で古い映画を安い料金で観ていましたね。
 友達や先輩と勉強会もやっていましたね。京大の理学部ではそういう伝統があって、授業に出るだけではなく自分たちで勉強していました。科学の専門の勉強だけではなく、科学周辺の哲学や歴史、環境問題なども輪読して勉強するんです。でも今思えばもっとちゃんと授業に出ておけばよかったとも思いますね。講義を聞いておけばよかったと思う先生がいるから、とてももったいなかったなと思います(笑) 

ー先生が専攻を決められたのはいつ頃ですか? 

僕は物理が好きで、1年生の時は物理にいこうと考えていました。でもいくつか生物の本を読んで、それがとても面白かったんです。特に進化の関係の本を何冊か読んだことがきっかけで生物を学ぼうと決めました。ジャック・モノーっていうノーベル賞もとった生物学者が、「偶然と必然」という本を書いたんですが、半分生物学で半分哲学みたいな本なんですね。この本に大きな影響を受けました。 

生物と哲学のつながりがあるんですか? 

まさにモノーが言っているんですけで、科学って何をするためのものと思いますか? 

ーう~ん・・わからないものを見つけること? 

そうですね。真理を見つけることです。  

科学ってもちろん、生活の役に立つのも当然ですけれども、人が知らない新しいものを見つけて世界を知る活動です。ただ、世界の何を知りたいのかが問題です。モノーも本の最初に「あらゆる科学の究極の野心が人間の宇宙に対する関係を解くことにあるとすれば…」と言っているんですけど、人間や自分がこの宇宙の中にどうしているのかを本当は知りたいのではないかと思います。 

だとすると、生物学はその問いにストレートに答える学問だと思っています。そもそも生命がどうやって誕生し、そこから人がどうやって進化してきたのかを明らかにすることで、この宇宙において人はどういう存在なのかを知ることにつながります。モノーの時代に生物学的なことがどんどん明らかになり、そういうものを基にして「人とは何か」と考えたときに、モノーは「偶然と必然」に書かれたようなことを言ったわけです。このモノーの本の内容に対してはとてもいろいろな反論もあります。批判や論争が起きること自体、おそらく多くの人がそういう問題に関心があったからだろうなと思います。僕も学生の時に生物学をやることで、そういうことにちょっとでも近づけたらいいかなってことを考えていました。 

偶然をチャンスに!!

最後に、総合科学部の学生へ一言お願いします。 

先生:総科の学生はとても優秀でポテンシャルがすごく高いと思いますが、それをどう活かすかが大切だと思います。総科は自由だから、何かの分野のスペシャリストにもなれるし、ジェネラリストにもなれます。自分で考えて自分で選ばなければならないのです。だからただ流されるだけではなくて自分はどうなりたいかを考えて生活を送ってほしいと思います。 

みんなが実感しているかはわからないですけど、大学はすごくいいところです。大学を出たらなかなかアクセスしにくいいろんなリソースが大学にはあります。例えば授業があり、設備がとても整っていて、図書館もあり、友達や先輩や教員もいます。それを無駄にしないで利用してほしいと思います。 

その一方で、頭で考えた通りに人生は進みません。今振り返ってみれば、人生の中のいろいろな節目には偶然や思いがけないことが起きていました。例えば先生や友人との出会いや、たまたま手にとった本で、人生が意図しない方向に変わって行くことが結構あります。だから、計画にはなかった偶然のチャンスに冒険してほしいとも思います。人生計画通りもいいけど、それはちょっとつまらないかもしれないね。何にでも飛び込んでいくような心構えをしておくと、自分が飛躍できるチャンスが生まれると思います。頑張ってください。 

まとめ

私たちの先祖がどんな風になっていたのか、気になりますね。人間や他の生き物の体が左右対称なのは当たり前だと思っていましたが、はるか遠い昔はそうではなかったと…生命の謎、とても奥深いです。これからさらに謎が解明されていくことでしょう!

また、『偶然や思いがけないことが人生を変える』という言葉がとても印象に残りました。ふとしたことが、自分の人生のターニングポイントになるのかもしれないし、そのためにはいろんなことに挑戦したりしていく気持ちが重要なのかもしれませんね。

それでは今回の記事はここまでです!

最後までお読みいただきありがとうございました!
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次回の更新もお楽しみに!!

(文責:If.)