移民を支える社会福祉 【国際共創学科 河本尚枝先生】
こんにちは!
今回は95号の先生インタビュー、最終回!
紹介するのは国際共創学科 河本尚枝先生です!
河本先生の専門は福祉社会学。特に高齢者の移民について焦点を当てて研究しております。
さらに本を読むことに特別な思いを抱いておられるようで、自身の経験を通じて大学生の読書の必要性についても話してくださいました!
それではどうぞ!
もくじ
日本語教育から福祉社会学へ
先生の研究分野について教えてください。
私の研究分野は福祉社会学です。今は特に日本や台湾、韓国、そしてアメリカ合衆国に暮らすお年寄りの移民について、彼らがどのような日常を送り、何を必要としていて、そんな彼らにどんなサポートを提供すべきかということをテーマに研究しています。
移民という研究分野に興味を持つようになったきっかけは何ですか?
私はこれまで30年ほど移民への日本語教育に携わってきました。はじめは文法やイディオムなど、日本語という言語そのものを教えることを熱心に取り組んでいましたが、移民の人たちが日本社会に適応するには日本語を学ぶだけでは足りないと気づいたんです。
例えば、ある工場で働いていた私の生徒が、工場の雇用主に渡された書類がすべて日本語で何と書いてあるのか分からないので教えてほしいと聞いてきたことがありました。このような経験を繰り返すうちに、教育、労働、貧困など、日本へ来た移民の生活を困難にしている様々な問題を認識するようになりました。彼らを助けることは、日本社会にとっても必要なことです。
そこで、私は日本語の授業外でも生徒たちやその家族を支援し始めました。皆さんもご存じかもしれませんが、現状として、日本では移民の抱える問題はその人々自身のプライベートな問題で、個々で解決しなければならないものとして捉えられています。それは日本人や、日本政府ですらもそのような見方をしています。ですから、私が日本語教育から移民問題に視点を変えたのはそういった問題に「興味を持ったから」というよりは、「より真剣になったから」というべきかもしれませんね。
研究内容を変える時に、躊躇はありましたか。
いえ、なかったです。新しい研究に挑戦することに対しては、面白くなるだろうと、とても楽観的に捉えていました。私は読書が好きなので、新しい研究も何とかやっていけたのかもしれません。でも、大学院に入って学び始めたときは、右も左も分からないような状態だったので苦労しましたね。
その状況をどう克服したのですか?
これから研究していくためには克服するしかなかったですからね、できることは何でもしました。大学を卒業してから社会人としてずっと日本語を教えていたのですが、30歳になって大学院に戻ってきたとき、自分がどう勉強していたか、どのように本を読んでいたか、そして自分の研究に対する問題提起をどうしていたかなど、もうほとんど覚えていませんでした。まずはそれを先輩に聞くことからはじめて、これまでに読んできた本を読み返したり、研究に関するハウツー本も読んだりしました。読書から得た知識が自分の研究を助けてくれることを経験上知っているので、今でもいつも学生には本を読むようにといつも言っています。
学生は本を読む暇がないほど忙しいように思うのですが、読書の習慣をつけるための秘訣は何かありますか。
本といっても、とても専門的で分厚い本でなくていいんです。小説でもビジネス本でも、自己啓発本でも、とにかくどんな本でもいいのでまずは手にとって、一日一ページからでもいいので毎日本を読む習慣をつけることをお勧めします。読書の習慣をつけるコツは少しずつ読むことと、興味を広く持つことです。時間の使い方ですが、自分だけの時間を作ってはどうかと思います。私が大学生の頃は、SNSはありませんでしたから、帰宅後の時間はすべて自分だけの時間でした。勉強したり、本を読んだり、自分の将来について考えたりする時間がたくさんありました。でも今は違いますよね。家に帰ってからも、SNSを通じてずっと友人たちと繋がっていられます。 それはとても便利で楽しいのですが、一方で自分を見つめる時間を持つことが難しくなっています。 なので、一日に少なくとも30分は、読書に限らず、自分の目標を達成するためや、知識を蓄えるため、もしくは自分の才能を磨くための時間として過ごしてみてはどうでしょうか。自分だけの時間って退屈だと感じるかもしれませんが、勉強のためだけでなく、自分の人生について考えられる時間にもなるので、今の学生にも一人になるということを学んでほしいと願っています。
先生のこれまでとこれからについて
先生が大学1・2年生、つまり18歳や20歳の頃に戻れるとしたら、自分にどのようなアドバイスをしますか。
三つあります。
・できるだけたくさんの人、特に大人と出会うこと、
・自分の時間を持つこと、
・本を読むこと
です。私が大阪大学の学生だった頃、先生たちは今ほど厳しくなかったんです。教養科目の先生はほとんどが京都大学から来ていたのですが、よく知られているように、京都大学は先生方が生徒に対して厳しくなくて、学生に自由が与えられていることで有名ですよね。宿題を出さないだけでなく、授業に来ることさえも求めませんでした。授業に出なくても、課題を出して、テストで点が取れればそれでいいんという先生が多かったんです。私は大学に入って初めてそのような先生たちと出会いましたから、ある時、ある先生に「君らはなんで毎週授業に来てるんや?」と聞かれて困惑したことをよく覚えています。だって授業は生徒が学ぶためにあるものじゃないですか。でもその先生は、 「教養科目ぐらいの内容は授業に出ぇへんでも家で本を読んでたら身に付くもんや」 と言ったんです。その当時は先生が何を言っているのかよくわかりませんでしたが、自分が教える側になった今ではよくわかります。 ただボンヤリと受け身の姿勢で授業に来て話を聞くのではなく、自分で本を読んで、自分の頭で熟考することが大切だとおっしゃりたかったんだと思います。
読書そのものだって同じです。ただ文字を眺めているだけでは身につきません。本当に意味のある読書とは、著者との対話だと思います。まず内容を理解し、著者が私たちに伝えんとすることを読みとり、そして著者が伝えたいことについて疑問を持つのです。でもそこで本は終わっていますからその疑問の答えは読者が自分で読み解いていくのです。 学レベルでの読書はそういうものだと思います 。
先生のこれからのことについてもお伺いしたいと思います。先生の専門である移民に関する社会学として、この先10年で達成したいことは何ですか。
今は移民の中でも特に高齢者に関する問題に取り組んでいます。教育や労働環境の改善など、移民の中でも若者や中年層に焦点を当てた研究は多くなされているのですが、高齢者に関する研究は多くありません。最近では、私自身も含め、多くの研究者たちがそのことに気が付き始め、高齢者に焦点を当てた研究も増えてきています。高齢の移民たちは、文化や言語に関しての問題を抱えていることが多く、これらの課題は人によって様々で、解決も困難なものが多いのです。かといって彼らをその文化や言語のために社会から除外してもいいのかというともちろんそんなわけはありません。人は誰もが尊重し合い、社会に包摂されるべきです。ですからこれからの10年では、高齢の移民の生活について調査し、その結果を専門家や高齢移民の家族、そしてその支援者の人たちと共有することで社会に貢献していきたいと考えています。
まとめ
日本語教育から福祉社会学への転換、それを支えたのはたくさんの本だったんですね。
様々な本を読む習慣をつけ、著者と『対話』する。情報を得るためにインターネットを使うことに慣れてしまっていたりSNSによって常に友達と繋がっていたりして本を読む習慣が減ってしまっている私たち大学生に対して改めて本を読むことの大切さを教えていただきました。
毎日1冊でも、本に触れる習慣をつけていけたらと思います。
それでは今回の記事はここまでです!
さらに、今回は紙面掲載した際は英語版だったということもあり、この記事と同時に英語版も公開しております!よろしければそちらもご覧ください!
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次回の記事の更新もお楽しみに!