直感を大切に [自然探究領域 飯間信先生]
こんにちは!
今回は、飛翔93号の記事からです。
今回紹介するのは、総合科学科 自然探究領域 数理情報科学授業科目群 飯間信先生です。
飯間先生の専門は、流体力学です。流体力学を含む非線形現象の解析について研究しておられます。
みなさんは、「流体力学」と聞いて、どのような研究をしているか思い浮かぶでしょうか?
さっそく見ていきましょう!
自分の意志でどうにでもなる
ー先生がされている研究について教えてください。
研究分野は流体力学という分野で、水や空気など形の無いものの動きを扱う学問です。流体力学の対象は幅広くて、天気の移り変わりなどを扱う気象学も大気の運動なので流体力学のある種の応用分野と考えることができますし、他に、飛行機は翼の周りの空気の流れを使って飛んでいるので航空工学なども、流体力学の応用分野の一つと考えられます。そう考えると、すごくたくさん応用分野があって、気象学や航空・機械工学などの元になるような学問の一つが流体力学だと思ってもらうと分かりやすいかなと思います。私は、大学院は統合生命科学研究科の数理生命科学プログラムというところに所属していますが、流体力学を他の分野、例えば生物の運動などと結びつけ、数理科学、数学的なものの見方を応用してその問題にアプローチするという立場で研究しています。
ー生物と流体力学は離れた学問のように思いますが、それらをどういう風に結びつけるのですか?
生物と流体力学を結びつけた研究として、例えばミドリムシという微生物についての研究をしています。なかでもこのミドリムシの集団に光を当てたときにできる特徴的なパターン形成のメカニズムに興味があります。生物学的には、ミドリムシが生き残るために意味があるとか、そういう説明になると思うんですけど、流体力学の立場では、流体運動を数理的に解析すると、こういうことが起こるので、こういうパターンができるというような説明の仕方になるんですね。言い換えると、ミドリムシ一匹一匹に注目するのではなくて、集団を連続的な場として見て、その運動を数学的に表して解析するということをしています。そうやって再現できたパターンが生き物として必要なものかどうかということは、次の段階の話になるんだけど。数理科学と言うと、紙とペンだけで数式を作ってというようなことを思い浮かべるかもしれませんが、私の実験室では実際にミドリムシを使って実験をして、そこからミドリムシの集団運動の数学モデルを作って流体運動と結びつけて解析しています。生物は、一見、数学とはあまり関係なさそうに思えますが、その運動に焦点を当てて、数学的な見方で解析をするというのが私の主な研究のやり方ですね。
ーいつ どうして、今されている研究をしようと思うようになったのですか?
私が通っていた大学では4年生になるときに研究室が大体決まって、大学院に入学して本格的にするみたいな感じだったんですけど、私の場合は大学院でも同じ研究室にそのまま4年生から所属していたんですね。その時に流体力学、ちょっとおもしろそうだなと思ってやることにしたんですけどそれが意外と続いて、今では飯のタネにもなっているし、そういう意味では続けていて良かったと思っています(笑) 。
実は当時、流体力学をすることに関して、あまり深く考えて決めたわけではないんです。直感に近い感じ。理系の人間がこんなこと言っちゃいけないだろうけど、何かで割り切れるっていうのもなかなか無いし、将来どうなるかも分からない。こういうのが今流行っているからいいだろうと思って決めてしまうと後で理由が無くなったときに根拠がなくなっちゃうから、何となくいいなと思ったとかピンときたみたいな、周りの状況が変わってもあまりそれとは関係ない、自分の判断基準で決めました。自分の興味がなくなっちゃうと終わりだけど、興味がある限りは多少状況が良くなくても続けようという気になる。自分の中での、「説明できないけどこれがどうもおもしろいんじゃないか」という直感みたいな感覚は、意外と何事によらず大事なんじゃないかなと思いますね。もちろん、判断するときにその感覚が間違っていたら、どんどんおかしなことになっていくかもしれないので、その感覚も時々振り返ったりして磨いていく必要はあるかなと思います。
ー 海外の研究発表会などにも参加されるのですか?
私はもちろんだし、学生さんでも修士くらいの学生さんなら、英語での発表をしている人も何人もいますね。今、M2の学生さん(当時)は英語苦手だからってすごく苦労して発表していたけど、結果的には評判良かったんですよね。ポスター賞みたいなのもらっちゃって、僕もこんなのもらったことないよ、というような豪華な副賞をたくさんもらっていましたね(笑)。
理系では外国の方と共同研究したり英語の文献を読むっていうのは当たり前なんですよね。けど、総科の特に理系で入ってきた学生さんは、英語苦手っていう人多いですよね。そんな人でも必要に迫られると意外と大丈夫なんです (笑)。研究の中で、英語で書かれた論文を読むのは、勉強としての英語とまた違うと思うんですよね。自分が興味をもっていろいろ考えてきたことに関係していることが書かれているので。あと、発表では英語の表現じゃなくて、中身が大事なので、中身が分かればいいんですよね。さっき言った学生さんは、正直話す方はよくなかったんですけど、コミュニケーション力や表現力はすごくある子だったので、そういった面で上手く工夫して、補っていたように思います。賞をもらっているということは、言っていることが伝わって、かつ、それが他の人に比べて良かったっていうことでしょうし、やっぱり研究内容を伝えるんだという自分の意志みたいなものが大切なんじゃないかなと思います。
英語だけじゃなくても、部活や趣味でも、何かに一生懸命に取り組むと、頑張ることを知れるので強くなれると思うんです。皆さんは受験のときに、一生懸命に勉強されてきたと思うので、頑張ることを知っていますよね。だから、何事も自分の意志次第でどうにでもできると思いますよ。
ー研究は何かを最終目標にして行われているのですか?
研究には、一般的にはゴールはいろいろあります。最近では産学協同と言って、要するに会社として製品を作って売ることを目標にするなどがあります。それはすごく分かりやすいのですが、私の場合は、もちろんそこまで行ければいいけど、どちらかというともっと基本的なところでちゃんと分かりたいという意識が強いですね。私が所属している研究科では、応用してすぐに役立てるというよりは、今まで見過ごされていてまだよく分かっていないことをちゃんと理解したいというタイプの人が多いです。そのようなことを積み重ねることで、長い目で見ると、人類の発展に寄与するような発明とか工業製品に繋がっていくのではないかと思っています。だから、 自分なりにちゃんと理解して、 「私はこの現象はこういうふうに思いますよ」ということを伝えていきたい。それが最終目標と言ったら分かりやすいでしょうか。
ー理学部などではなく、 総合科学部で先生がされているような流体力学や数理科学の勉強や研究をすることについて、どう思われていますか?
総合科学部の場合は文理融合で皆が同じプログラムで学ぶので、異分野の人達が一緒に研究して新しいものを生み出すことを喜ぶ、そういうことをより進めていこうという雰囲気がある学部だと思っています。総合科学部は、文系の人も理系の人も同じ土俵で学んで、その中で自分なりのものを作り上げるところだと思うんです。そういうところで研究していると、もっと広い視点で何か新しいことができるかもしれないので、総科で流体力学や数理科学を勉強することには十分意味があると思っています。
ー数理科学のおもしろさや魅力って何ですか?
数理科学は、定理の証明や誰かの理論とかがすごくはっきりしていて、見れば分かるという分かりやすさがあると思うんですよね。数理科学をしている人は、ある事に関して、よく考えてみると分からないからそこをもっと追求したいなあというような思いを持った人が多いと思うんですよね。だからやっぱり、ひとつのことをどんどん深掘りしていくところにおもしろさがあるのではないかと思います。同時に、何事もある程度やってみないと、本当のおもしろさが分からないということも知っておいてほしいと思います。
あと、理系の場合はどうしても数式を使うことになるので、それがこの分野の言語みたいなものなんですよね。文系の場合は日本語だったり英語だったりというような言語を使って、そのうえで何かをするということが多いと思うんですけど、理系は数式を使って何かをすることがわりと多くて、それで分かったことを最後に言葉で説明して納得してもらうので、そのツールである数式はある程度使えるようになっていたほうがいいですね。日本語や英語でも、言葉を知らないと表現できる内容が限られてきてしまいますよね。それでも言えることはあるだろうけど。いろいろ言葉や表現の仕方を知っていた方が、有利だと思います。
この他、総科の学生さんということで言うと、総科は文理融合を謳っているけど、実際に文系と理系というところまで融合して何かをするっていうのは意外とされてないような気がするんですよね。文系の中の近い分野、理系の中の近い分野での融合はたくさんされているように思うけど。あえてそれをチャレンジしてみるっていうのもおもしろそうだなという気もします。そういうのは大変かもしれない。けど、自分の考えがある程度しっかりしていて、受け入れの先生にもそれを理解してもらって、そういうことができそうだなってなったら、そういうのもおもしろいのかなって思いますね。世の中ってチャレンジの積み重ねで何かを成し遂げていくという部分もありますから。
ー先生は学生時代をどのように過ごされたのですか?
学生時代は今よりのんびりしていたんじゃないかなと思います。今の学生さんは勉強やアルバイトで忙しくしていると思うんですけど、私が大学生だったときは今よりもうちょっとのんびりしていて、アルバイトも、たまにお金が足りなくなった時に単発でアルバイトをするといった感じでした。だからどっちかというと時間がたっぷりある感じで、本を読んだりとか、友達と遊びに行ったりもするんだけど色々と考え事をすることが多かったような気がしますね。それも今思えばいろんなことに間接的に役に立っているんじゃないかなと思っています。いろいろと、ああでもない、こうでもないとか考えるのが当時から好きだったので、ものを考える習慣や先ほどお話した直感みたいなものが身についたのかもしれないです。あとは、仲のいい友達何人かでつるんで、例えばテニスがそのとき流行ったらテニスをやってみたり、冬になったらスキーに行ったりとか、そんな感じですね。だから何か一つ決めてするよりはみんなでワイワイといろんなことをするといった感じでした。あとは、やっぱり数学パズルみたいなものが好きな友達が多かったから、こんな問題があるんだけどどうだ、みたいな感じで、みんなで考えて解いていましたね。そんなに難しいものじゃなくて、おもしろパズルみたいな、気軽にできるものをよくして楽しんでいました。
ー総科の学生に一言お願いします。
今の学生さんはすごく頑張っていますよね。もちろん勉強も大事だけど、今しかできない、大学生らしいことをもっとしてほしいですね。友達とワイワイ騒ぐとかも大学生でしかできないだろうし。総科生に限って言えば、せっかく文系と理系が同じ学部に交ざっているので、分野の離れた知り合いや友達も作っておいたら、将来、何かに活きてくると思いますね。考えが違う人の方が刺激を受けるという面もあると思うし、他学部では得られない財産になると思います。総科にいると、幅広くていろんな考えを持った人と出会えると思うんですよね。飛翔も、異分野の人と一緒に何か作業をする一つの場になっているんじゃないですか?そういう機会を大切にしてほしいなと思います。
まとめ
「理系の場合は数式が言語」という考えにとても驚きました。
また、総合科学部だからこそできることをこれから自分たちで考えていけたらなと思い、そのはじめの一歩としての飛翔になれば、と思いました。
それでは今回の記事はここまでです!
次回の更新もお楽しみに!