貧困問題について、命がけでなくても支援できるようにする[社会探究領域 佐々木宏先生]

こんにちは!

今回は、飛翔97号の記事からです。

今回紹介するのは、総合科学科 社会探究領域 現代社会システム授業科目群 佐々木宏先生です。

佐々木先生は、主に国内外の貧困問題の社会学的研究をしておられます。

研究紹介

ー先生の研究について教えて頂けますか

一言で言うと、インドの貧困家族の子どもの教育の研究を大学院生の頃からやっていました。北インドのある街で20年ほど調査を続けています。日本では他の研究者と共同でホームレスや生活保護の問題に関わっています。 

ー先生がインドについて研究するようになったきっかけを教えて頂けますか。 

90 年代は長期の休みでバックパッキングするのが流行っていて、東南アジア等を訪れていました。その流れで大学3年生の3月にネパールに行ったんだよね。その時は卒論の題材を探していて、その頃から南アジア地域に興味があったけど、日本にはあまりネパールの情報がなかった。そこで論文や学術書で多く取り上げられているインドについて卒業論文で扱うことにしました。テーマはチャイルドレイバー、インドの児童労働についてやろうかということで始めたらインド研究者になっちゃったっていうのがきっかけになります。 

貧困問題について、命がけでなくても、支援できるようにする

ー貧困問題について関わるようになったきっかけを教えて頂けますか。 

東南アジアとかに行ったことがあるかな?僕が行ったのは30年くらい前の話だから今とは違うと思うけど、その当時、道を歩いていて貧しい子供たちがいっぱいいたんだよね。物乞いしている子供とか、朝、通学する子供の中に貧乏だから学校に行けていない子供の姿をずっと見てきていて、どうにかならないかなという思いはずっともっていました。ネパールのNGOに行った時に、そういった子供たちに対する支援をしていくのに大変な苦労がある状況を目にした。政府から弾圧を受けたという話も聞いた。実際に支援をする人々は命がけで、信念があってすごいと思ったけど、自分にはできないなと思った。その時、命がけじゃないと支援ができないという状況が良くないと思って、普通の人でも関われるようになるためにどうしたらいいかなと考えた。せっかく大学にいるんだからこの問題について、支援の難しさについて考えてみる作業ならできるんじゃないかと思って始めたのが経緯です。そして貧困の中にいる子供たちにとって教育に何ができるかということも課題となっています。

ー卒業論文で扱った題材から研究者という道を選んだ理由について教えて頂けますか。

支援の研究という形で関わってみたらすごくおもしろかったからなんだよね。(卒業論文制作では)インドの児童労働というテーマからスタートして本や資料を集めていくと、学者や国際機関が問題だと考えていることと実際インドで体験したことと随分違うなと感じた。過酷な労働が問題視されていたけど、多くの子どもが家の仕事を手伝わされている状況はあまり知られていなかった。過酷な労働についていけない子供は放っておかれていいのか、ということに疑問を感じ、修士課程・博士課程での研究につながった。そして、自分が見てきたものをちゃんと伝えなきゃ行けないなと思った。それでフィールドワークとしてインドに行って、自分が見てきたもののエビデンスを集めて発信するのがおもしろくなってきたってところかな。 

ー最近の研究について教えて頂けますか。 

ここのところはずっと貧困家族出身の大学生について調査をやってるんだけど、対面式でじっくり話を聞くスタイルで、5年くらいのスパンで何度も何度も同じ人に会って、就職のことなどの話を聞いています。教育が与えた結果の出口がどうなっているか、ということを調べています。学校の情報が必要になるんだけど、インドの役所の情報が正確でない場合も多いから、自分の足で訪ねていってマッピングをしたりと色々しています。今年から日本で本格的に動き出しているのは、生活保護を受けてる人が自分たちの存在を訴える当事者運動というのがあって、戦後からあるその運動がマイナーで、声を上げると抑圧されることもある、という歴史と今の状況の研究を始めるところです。 

研究するうえで大切にしていること

おもしろがってやるから、苦ではなくておもしろいと思うことに接近していく

ー研究にどのような姿勢で取り組んでいるのでしょうか。

研究は他者に発信していくことでもあると思ってます。どれだけ一般の人々に伝わっているのか分からない時もあるけど、博士論文を出版した時に、インドの人に「これなんだよね」と言われた時は嬉しかったけどね。

ー研究をしていく中で出会った印象的な人がいらっしゃれば教えて頂けますか。 

現地に行って情報を集めるのは、コネのない外国人にとってはかなり難しいんですよ。修士論文までは、現地に行ってNGOや大学を訪ねても邪険に扱われ、現地調査ができない状況でした。インド中を北から南まで流浪している時、あるインドの方と偶然出会い、意気投合しました。色々なコネクションを持っている方だったので、学校やNGOに、紹介状や電話をかけてくれたことで、博士論文ではフィールドワークをして研究ができるようになったんだよね。彼と出会ったきっかけは、研究ができず、がっかりしながら寝台列車に乗って、ニューデリーに向かっている時に、同じコンパートメントのインド人家族におもしろがられて絡まれている僕を、隣のコンパートメントにいた彼が興味を持って話しかけてくれた。「研究をしようとしているけどなかなかうまくいかないんだ」と下手くそなヒンディー語で話した時に、「もし僕の実家のある町で調査するんだったら手伝ってあげるよ」と言って仲間になってくれた。その彼との出会いというのがとても大きいです。 

ー先生がその方と出会えたのも、先生が研究に意欲をもち奔走されたからだと思います。 

色々なところにいったから出会えたんだろうね。インド中うろうろしてマラリアにかかって入院したりもしたけど(笑)。おもしろがってやるから、苦ではなくておもしろいと思うことに接近していくだけだよね。

ーやはり大学生は積極的に取り組むべきなんでしょうか。 

人によって違うんだろうけど、調査したいという一心で取り組んでいただけなんで、絶対こうしなければならないというわけじゃないと思う。こう思うのは研究者としての育ち方の違いから来てるんだと思うけど、僕の(大学時代の)研究室はインドを研究する研究室じゃなかったから、もがきの中でやってきた。今は途上国について研究するのも、もう少し楽になっていると思います。

コミュニケーションのコツは誰と話すときも、構えを変えないこと

ー調査をする際に、どのようにコミュニケーションをとっていらっしゃいますか。 

人と人の関係だからそれぞれ相性があって、ぎくしゃくすることもあるので、コミュニケーションがうまくいかないときもあるよね。それでいいんじゃないの、とも思ってるけど、一つのコツは、インド人と話すときもホームレスのおじさんと話すときも、学生のみなさんと話すときも、構えを変えないということだと思うんだよね。人間っていうそれだけです。 

大学生に向けてメッセージ

ー広大生と関わってどう思いますか。 

もともと広大に来るまで授業をするのが大嫌いで、自分が学生の時は、授業より自分の学びたいことを選ぶタイプだったから、教えることなんて無い、自分で探してみなよ、と心から思ってました。広大に来てから、授業をする機会が増えて、学生と接すると、おもしろがって自分で何かをするまで学生をもっていってあげるのが大事なんだと気付いて、授業が好きになったよね。学問のおもしろさを分かってもらいたいなと思いながら授業してます。 

従わなければいけないことには従い、後は、自分の生きたいように生きる

ー先生のように自分の好奇心を強く持っているためにはどうしたら良いのでしょうか。 

みなさんそれぞれ名前と顔が違うとすれば、個性があるはずなんですよ。大学出たら就職しないといけない、とかそういうことも含めて、世の中が強制力をかけてくるんですけど、でも、どうしても従わなきゃいけないことだけ従っていて、後は好きにしたら、自分の生きたいように生きられるんじゃないかなって思ってるんだけど。自分から世の中にすり寄っていく必要はないと思う。小さな文庫本になってるんだけど、『私の個人主義』っていう夏目漱石の講演をまとめたものが座右の本なんですよね。よく卒業する学生さんにも紹介するんだけど。これを読むと自分を持って生きることがそんなに難しいことでもないとわかると思うよ。

ー広大生に伝えたいことはありますか。

(飛翔の取材を受けるのが)3 回目で、この質問も毎回答えてるんだけど、率直に本音を言うとすれば、「みんな楽しく生きてよ」ってところかな。広大の学生さんだけじゃなくて、世界中の人にそう思ってる。 

編集員から

おもしろいことに取り組んでいるから苦にならないという言葉が印象に残りました。

私も学生生活の中で、おもしろいと思うことを見つけそれに向かって励んでいきたいと思いました。

それでは今回の記事はここまでです!次回の更新もお楽しみに!