倫理学の実験室は頭の中!?【人間探究領域 眞嶋俊造先生】

こんにちは!

本日も飛翔95号掲載の先生インタビュー第2弾をお送りします。

今回紹介するのは
総合科学科 人間探究領域 人間文化科目群 眞嶋俊造先生です。

眞嶋先生の専門は倫理学。戦争と平和について倫理学を通して研究していらっしゃるようです。

倫理学の研究ってどうやるの?そんな疑問にも答えていただきました。それではどうぞ!

倫理研究とは考えること頭の中の実験室

―まず先生の研究内容について教えてください。

倫理学、特に応用倫理学を扱ってます。その中でも大きく分けて戦争と平和に関すること、あとは研究倫理を扱っています。研究するときに、人のものをコピペしたらダメよ、とかそういうものです。

―倫理学の研究ってどのように進めて行くんでしょうか?

考えることですね。「倫理」ってあれしちゃダメ、これしちゃダメ、とかのことだよね、例えば嘘ついちゃダメとかも倫理で、それにはおそらく理由があるよね?相手の信頼を裏切るから、自分がされたくないから…法や宗教で禁止されてるからっていうのもある…っていう風に、倫理学は倫理に対してなんでそのルールがあるのかとその理由を考える。その理由っていうのも必ず一つじゃなくていくつか出るしね。あとはクローンとか臓器移植、安楽死とかの社会問題が正しいか正しくないかとかそれを考えるのも倫理学。自由や自律、相手の尊重、権利って重要で大事なことだって私たちは思っているよね。その倫理学の知見や考え方を、私たちが社会で生活する中での具体的な事象や行いについて持ってきて考えてみようっていうのが応用倫理学。倫理学っていうのは人の行いに対する学問で、今私の専門である戦争と平和っていうのも人が集団で行う行動だから倫理学の対象になりえる。戦争の中でもテロだとか戦争の一部として拷問や尋問とかいろいろな行為があるし、それも対象になる。倫理学の対象はいっぱいあるんです。

―どんな実験をするんですか?

 頭の中で実験します。具体的にいうと仮想事例とかを考える。トロッコ問題っていうのも頭の中の実験室でしょう?実験っていうと言い方がおかしいのかもしれないけど、この場合とこの場合と何が違うのか同じなのかどう違うのか、それはあくまでも心理的なものではなくて何かが違うかもしれないでしょ。そのどこに倫理問題があるのかってあぶりだすためにもつかったりするよね。あとは事例を作ってみるっていうのもある。例えばレポート。このレポートを出せば単位くれるけど出さないと落単する。でも期限は3日で手元には何もない。どうする?とかね。頑張って書くとかコピペするとか…いいか悪いかは置いておいてとりうる行動があるってことは自分の世界が広がるってことだよね。その次に果たしてその行動が倫理的かどうかを考えて最悪な事例を避けるようにする。これも倫理教育って意味では一つの実験的な手法ということができる。

―どうして倫理学をやろうと思ったのですか?

 元々は法学部の政治学で国際関係論とかをやろうと思っててアメリカのシカゴ大学の大学院に行ったけどなんか合わなくて。たまたまそこの中で戦争に関する思想の歴史っていうのがあってその先生が指導教員になったっていうのが始まり。それで主に戦争と平和をめぐる思想に興味を持って、イギリスに行ってから本格的に倫理学的な歴史を学びました。戦争について倫理学の立場、見方から何が考えられるのかな、と思って戦争を対象に応用倫理学をやろうかなと思いました。

―学生時代は倫理学に興味はなかったんですか?

全くなかった。政治学にもあまりなかったんだけどね。学生時代はジャーナリストになりたかった。戦争が絡むかもしれないんですけど戦場カメラマンとかなりたかったんですね。旅行とかもしてました。

―どちらへ?

大学3、4年の頃にイラク。それからアフガニスタン。あとはチェチェンやコロンビア。戦争の合間や戦争しているときに行きました。現場を見たいなあということで。危ないですねえ(笑)

―初めてイラクとかに行こうと思ったきっかけは?

ジャーナリストになりたいから現場っていうのを知りたいなと。それこそ戦争って言っても日本だと戦争ってリアルじゃないでしょ。当時はインターネットもなかったから情報はあまりなかったからね。現地に行くのがジャーナリスト、って考えで行って見たいと思って。それでだんだん行きたいと思うようになって、時間ができたので。

平和のための戦争の倫理学

―実際に現場に行って見てどうでしたか?

 なんていうんだろう、戦争ってなんか人と人の殺し合いってイメージがあるでしょう?確かに弾が飛んできたり、死体を見たりっていうこともあったけど、でもそこに普通の人の日常があるんだよね。確かにストレスもあったし大変だったけども。その中で普通に暮らしている人もいるという面を見ることができた。ある意味無責任な言い方かもしれないけど、その人たちにとってそれが日常であってそこには笑いもあるかもしれない。笑いのない生き方だけではないっていうのも見ることができたのは自分としては一番現場に行ってよかったこと。行かなかったら今でも戦争は人と人の殺し合いで…っていうふうなイメージだけだったかもしれない。

―現場に行ったことと倫理学を学ぼうと思ったことは関係ありますか?

ひょっとしたら、大学生の時に、戦争ってなんだろう、戦争について昔の人はどんなことを考えているのかなとかの思想史に行こうか考えたこともあるけど、それはあまり手法としては面白くないなあと。戦争が悪いっていう判断をするんであれば、どんな理由があるかなぜ悪いのかっていうのを考えて行きたいと思うようになったかもしれない。対象は戦争だけど、手法というかアプローチの仕方が倫理学だった。そんな感じですね。

―最近ではどんな研究をしているのですか?

1月に本が出ます!(インタビュー時は2018年12月)買ってください(笑)タイトルは『平和のために戦争を考えるー「剥き出しの非対称性」からー』なんかおかしいでしょ?平和のためなら平和を考えばいいよね?内容としては、まず無人の飛行機から攻撃するドローン攻撃っていいの?悪いの?とかね。

軍需産業をやっている工場って戦争でターゲットになるよね。そういう企業がどれほど従業員や周りの人に配慮しているのか?とか。あとは子供兵士。子供兵士ってなんで問題なんだろう?…一言で言うと搾取だよね。子供兵士を使っている国は経済的に貧しくて社会的にも恵まれていないかもしれない。だけど子供兵士として使われている時間を勉強したり遊んだりすれば、将来もっとよりよい生活を送れるかもしれない。子供の現在も未来も強制的に奪うから、二重の搾取。子供兵士の問題ってこれだけじゃなくて、国軍の大人の兵士が子供に銃を向けられたら、どうなるだろうか。その兵士が銃を持つ子供兵士を無力化することは道徳的に許容される?人を殺すことは常に必ず道徳的に悪いの?確かに子供兵士を無力化したら道徳的に非難されるよね。かといって子供兵士を無力化しなければ、こちらに生命の危険がある。でも実際、子供兵士に攻撃して死んでしまった場合、メディア的な避難を受ける場合がある。ただそれが道徳的に非難されるかどうかって言うのは議論があると思う。でも、子供を面白半分で殺すのは論外でしょ?だから文脈とかによって私たちの判断は変わってくるかもしれない。最近の研究はそういうことをやっています。

―研究を行なって行く中で苦労したことはありますか?

苦労っていうか、10年くらい前に何を研究してるんですか?って聞かれたときに「戦争に意味はあるんですか?」って笑われたんだよね。欧米ではこんなに戦争の倫理学の研究があるのに、日本では生命倫理や環境倫理とかは受け入れられやすいんだけど、戦争倫理は歴史的背景とか想像がつくような理由で戦争倫理に関しては「そこに倫理はあるんですか?」ってなって当時は受け入れられなかった。10年前にはキワモノ扱いされてたのが辛かった。今でも微妙にされてますけど。当時よりは理解される層が広がったのはよかった点ではあるかな。

―逆に研究の魅力について教えてください。

 テーマが尽きないというのはおかしな話だけど、戦争と平和の倫理学を研究しても戦争がなくなるとも平和が実現できるともあまり思っていない。ただ、何が悪いことで、何が悪いことではないかって言うのを、明確に提示するってことはできるかもしれない。それをだれか力のある人が政策に移そうってなったら、おこるべき戦争が起こらなくなったとか、もしくは戦闘のなかでの残虐な行為が少しでも減ったかもしれない、という風になれば、研究した甲斐があるなって思うし、その方向性に少しでも貢献しているのかなっていうのが魅力かな。

―じゃあ先生の思う平和とは何でしょうか。

 私の本に書いてあります(笑)

―今後研究を続けて行く上での目標を教えてください。

戦争の倫理学に関する本が1月に出てそれで一息つくので、新しいテーマを考えています。倫理教育法とか…教育の方法と言った部分、例えば研究倫理に興味があります。コピペしちゃダメだよって言ってもする人はいる…じゃあコピペをしないようにするにはどう教えたらいいの?っていう、教育の方法にある倫理に興味がある。あとは他の専門職に対しての教育の方法。効率的効果的でしっかり響くような教育の手法とかについて進めて行きたいなと。

―最後に総科生へのメッセージをお願いします。

 人生長いから、これからいろんな倫理問題っていうかジレンマに直面するかもしれないじゃない。例えば、進むも地獄、退くも地獄、止まっているのはもっと地獄っていった中でもそういうような状況でも私たちは判断して、何か行動しなきゃいけないでしょ?その時に必要なのは最悪を避けることですね。どうしようもないような窮地であっても、最低限最悪を避けるように心がけて行動するっていうのが大事かなっていう風に私は思ってます。今日のいい言葉ですね。そんな状況で決断を迫られることは人生そんなにないと思うけども、あった時にね、いきなりパニクると最悪を踏んじゃうこともあるので、そういう時は一回深呼吸しましょう。で、行動しましょう。

まとめ

頭の中が実験室、とても面白い表現だなと思います。倫理学の研究は思考することに尽きるんですね。

また、平和のために戦争について考える、という視点がとても興味深かったです。

様々な行動パターンを考え、最悪を避ける行動をする。倫理学は私たちにとって普段意識してないだけでとても身近なものですね。ぜひ皆さんにも窮地に追い込まれた時こそ、冷静に判断してほしいなーと思います

それでは今回の記事はここまでです!次回は別の領域の先生へのインタビューを公開します!!お楽しみに!!

文責:If