総合科学部のキャパシティを味わう [社会探究領域 材木和雄先生]

こんにちは!

今回は、飛翔93号からの記事です。

今回紹介するのは、総合科学科 社会探究領域 現代社会システム授業科目群材木和雄先生です。

材木先生は、社会科学や社会学を専門とされています。社会学方法論や多民族共生社会、結婚難、国債、高齢者介護、年金・医療保険と幅広い問題について研究されているそうです。

社会学は、私たちの生活に深く関わる学問です。一体どのような研究をどのようにしているのでしょうか?

それではどうぞ!(2018年3月掲載のものを再構築しています。)

総科のキャパシティを味わって

ー専門の研究テーマ、 内容について教えてください。

 専門は、現代社会学地域研究の2本柱です。現代社会学については、近年では少子高齢化社会の諸問題について、地域研究では、旧ユーゴスラビアの民族問題や難民の帰還問題について研究をしています。25年前は、中国の国有企業と私企業の調査などもしていました。また社会調査演習の授業では、社会調査士認定プログラムができてから四度目の担当になりますが、これまで、最近の結婚に関する問題や高齢化社会の問題に関するテーマで調査を行いました。最新の研究(2020年度)では、「高齢期の経済生活」に焦点を当てています。

 内容を少し紹介すると、最近、老後に必要なお金について国民の関心が高まっています。そのきっかけは、2019年6月に金融庁が公表した報告書です。同報告書は、年金生活を送る無職の高齢夫婦世帯は毎月の家計収支が平均5万5千円の赤字になるため、65歳の人が95歳まで生きるためには2000万円の資金が必要との試算結果を示し、大きな波紋を投げかけました。

 しかし、高齢期の所得や貯蓄・資産の大きさは個人差があります。経済基盤によって生活上の課題に対処する能力が異なってきます。だから、金融庁の報告書のように家計収支の平均値だけでは高齢期の経済生活の実相を推し測ることはできません

 そこで授業では高齢期の経済生活の実態をとらえる社会調査を企画しました。この調査によって、高齢期の人々はどのように日々の暮らしを送り、生活上の課題に対処しているかを計量的に明らかにするデータを得るとともに、今後の若い世代は長くなった高齢期を見据えてどのように生活設計をしたらよいのかを考えるヒントを得たいと考えています。

 もう一つの研究の柱である地域研究の民族問題や難民の帰還問題については、旧ユーゴスラビアでの内戦は20年以上前に終了しているにもかかわらず、まだ統合はされておらず、昔のような社会にはなっていません。だから現地調査を通じて、現在の様子や今後どうなるかを研究しています。クロアチアとボスニア・ヘルツェゴビナがメインのフィールドです。

  ただし、コロナウイルスの感染拡大の問題のために現地の訪問調査は控えており、こちらの研究は休業状態です。興味のある方はグーグルでキーワードを入れて検索してもらえれば過去の研究成果の一部が出てきます。

ー研究のきっかけはなんですか?

元は産業社会学が専門で、社会の側面から経済や産業について考えるというのが基本的な研究のスタンスだったんですね。大学院の頃は、高度経済成長に伴って地域の産業や職業構造がどのように変化して行くかという研究をしていました。また、農業という産業についても研究していました。農業は産業としては衰退しているけど、兼業農家で労働と農業を兼任しているのが今の日本の農業の中心です。 このテーマだと、 地域社会と産業、労働を同時に研究できました。また当時ユーゴスラビアは社会主義国だったのですが、労働者自主管理制度と言って、労働者が経営に携わるという、独特な企業運営制度でした。そういう自主管理社会主義という当時のソ連型の社会主義とは異なるシステムの研究をすることになり、旧ユーゴスラビアに留学しました。しかしその後に民族紛争が起こって、連邦国家自体が崩壊し、民族問題がクローズアップされるようになりました。当初民族問題には関心はなかったけれど、研究対象の国の出来事に衝撃を受けて興味を持つようになりました。

ー実際に調査に行って現地の方々と交流されるのですか?

はい。現地に行って交流というか話を聞くという感じかな。いろんな民族がいますからね、主にはセルビア人、 クロアチア人、 ボシュニャク人(ムスリム人ともいう)それぞれの民族のグループに話を聞くということをやっています。こちらの論文は紹介しなかったけれども、先に述べたようにウェブサイトを検索すればいくつか出てくると思います。

ーご自身の趣味とかはありますか?

趣味は、研究のついでにいろんなところに行っていろんなものを見たり、食べたりというのもありますし、最近では外国にいた時の友人や知り合いを自分の家に招いて料理を振る舞ったりというのをやってます。

ーちなみに今までで一番印象的だった食べ物はなんですか?

 ベストワンはハンガリー・ブダペストのタルタルステーキ。次にザグレブでしょっちゅう食べたボスニア・シチュー(「ボスニアのお鍋」と現地語で呼ばれています)、あとはセルビア・ベオグラードの野性的なハンバーガー、ボスニアの焼肉団子、ポーランド・クラクフのピザパン。これらはすべて最初に留学したときに食べたものです。それぞれに当時の時代状況が思い出されます。すべて地元のお酒(地元のビール・ワイン・ブランデーなど)と一緒に食べるとすごく美味しい(笑)。ただし同じものを日本で作って食べてもそれほど感動がない。やはり料理は地元の状況と一体で味わうべきものです。

ーどんな学生時代を過ごしましたか?

学部生の頃は第二次オイルショックの時期で就職難だったし、暗かった時代かもしれませんね。学部の頃は総合科学部ではなくて、文学部哲学科社会科専攻でした。やはり自分のやりたい研究ができて楽しかったです。自分がもともとやりたかった研究は哲学でしたが、やっぱり難しいなと思ってね、だから哲学はパスして、他に、哲学科の中で一番現実的な社会学を選んで勉強することにしました。サークルでは歩いて旅行する会みたいなのを友達と作って、結構その当時、日本のいろんなところを行って、ユースホテルからユースホテルまでを歩くみたいなことをしてました。日本海地域や福島の方、四国なんかも行きました。そうやって歩いてどこかに行くっていうのは、今やってるフィールド調査にも通じるところがあります。というよりも、やってることは今も昔もあまり変わってないですね (笑)。 まあ健康のためにも歩くようにしてますね。足が弱くなったらフィールド調査できなくなるから。

ー総合科学部の学生に一言あればお願いします。

一つ思うことは総合科学部の良さであるキャパシティを、存分に味わってほしいなということです。というのは、総合科学部のキャパシティというか良さっていうのは、いろんな研究分野の先生がいて、いろんな授業を受けることができるよね。でも実際に学生が受ける授業っていうのは、総科にいる先生全体のうちの何割くらいだろうね。それぞれの研究領域にもたくさんの先生がいるけれど、半分も履修してないと思います・・・。残念ながら、全然コンタクト取らない先生とかもたくさんいるから、その点はもったいないかなと思うな。

プログラムのキャパシティを満喫して卒業しているかっていうと、ちょっとその辺は疑問ですね。これもやむを得ないと思うんだけどね、非常にごく狭いところでしか総合科学部の良さを味わってないんじゃないか、という風な気がします。そういうことで総合科学部生に望むことといったら、せっかくのスタッフが揃っていて、メニューがいろんなものがあるわけだから、できるだけやっぱりそれらを食わず嫌いせずにとってほしいなと思いますね。これは単位が取りやすいか、難しいかみたいな判断で、授業を取らなかったりするから。

 その点、昔の総合科学部の学生はよく授業を履修していた。専門を超えていろんな科目をとろうと行く気持ちがあった。必修単位を20、30単位上回って単位を取る学生が多かった。文理の枠を超えて授業とっていた。それがGPAで取得した単位の成績が問題になるようになったから、このような傾向はなくなった。今、卒業時の取得単位は、判で押したようにみんな126単位。履修科目を増やしてAの比率が低下することを恐れ、必要最小限の単位数を確保したら、それ以上授業をとろうとしなくなった。これはもったいないです。成績が気になるなら、単位不要でよいからもっといろんな科目に出席してほしいと思います。

 参考にならない話かもしれませんが、フェニックスで入学された方(元警察官、広島市在住)で卒業までに200単位を取得した方がいます。毎日、4コマくらいとっていたそうです。その人はどの授業も面白く、勉強になるので欲張ってとってしまったと話しています。但し私の授業は1時間目だったので、よく寝ていましたが、それでも毎回教室に一番のりで受講していました。個別の科目履修だと1科目15000円くらいかかる(他に入学料や検定料も必要)が、正規学生はいくら授業を履修しても授業料は同じなので有り難いという話もしていました。この方は大学院の修士課程まで進学したので驚きです。

 私の担当している社会学方法論と社会学方法論演習は、「現代社会の秩序がどのよう維持されているのか」という問題についての社会学の基礎的な理論を取り上げています。そこには総合科学部の学生にとってこの話は聞いていてほしいなと思うパートがいくつもあります。将来どういう研究するにあたっても役に立つような話です。

 多くの先生方が総合科学部のプログラムを担っていて、総合科学的な思考を深めるうえで貢献していると思います。せっかくいろんなメニューが並んでいるわけです。耳学問するだけでも非常に面白いので、いろんな先生の授業に出てください。総合科学部の懐の深さを体感してほしい。それが皆さんに望むことです。

まとめ

研究中の出来事から、研究内容が見つかることもあるんですね。

また、総合科学部の分野の広さを、料理として捉えることで、幅広い学びの大切さに気付くことが出来ました。

それでは今回の記事はここまでです!

次回の更新もお楽しみに!