ソフトマテリアルから持続可能な未来へ [自然探究領域 田口健先生]
こんにちは!
今回は、飛翔97号の記事からです。
今回紹介するのは、総合科学科 自然探究領域 物性科学授業科目群 田口健先生です。
田口先生は、主にソフトマターの結晶成長・パターン形成の物理について研究しておられます。
ソフトマターとは一体どんなもので、どんな研究をしているのでしょうか?
さっそく見ていきましょう!
チャレンジ=まだ誰もやっていないことをやる
ーまず先生の研究内容について教えてください。
主にソフトマテリアルと総称される柔らかい物質中の構造形成を研究しています。具体的には、プラスチックや油脂のような物質のミクロな構造をX線や顕微鏡を用いて実験的に調べています。もう少し詳しく言うと、プラスチックでも高温では液体状ですが温度を下げると結晶になって固化するものがあります。私は、このようなプラスチックや油脂が液体から結晶へと変化するときの構造形成過程を研究しています。
ーソフトマテリアルを研究することでどんな未来が実現できるのですか。
最近、プラスチックごみが問題になっていると思います。この問題を解決するために、10年以上前から石油や原油ではなく植物を原料に使い、微生物が自然に分解してくれるような新しいプラスチックの開発が進められています。私も、それらの材料研究の一端を担っているとも言えます。私たちの研究が地球にも人間にも優しく、持続可能な社会の構築に繋がる研究になればいいですね。
ー物性科学の魅力とは何ですか。
物理学には、普遍的な“現象”を主に扱う分野もありますが、物性科学は具体的な“もの”を扱う分野の一つです。物性科学で分かりやすいものは固体物理学です。この分野では多くは金属や半導体などの“硬い”物質を扱います。そして、それらの物質中の電子の振る舞いや電気的な性質を調べることで、新しいものを生み出しています。我々がオンラインで話しができているのは、このような分野の成果なんです。固体物理学のような伝統的な分野と比較して、私たちが研究しているソフトマテリアルの分野は比較的新しく、新しい学問を生み出そうという風潮があります。新しいものを生み出すのは、難しいことが多く、一筋縄ではいきません。しかし、まだ理解できていないことを解明していくという営みは、とても楽しい作業です。
ー物理学の道に進もうと思ったきっかけは何ですか。
自分の性に合ってたのだと思います。実は、別に物理にすごく魅力を持ってたかと言うと、そういう訳でもないんです。ただ、物理学は筋が通っていて、学問体系もしっかりしていたので、学ぶのがすごく楽しかったんです。高校生になって、物理学を先輩から教えてもらう内に、自分の中で驚く発見があり、しっかり物理学を学んでみたいなと思うことがありました。ただ、高校時代には、物理はほとんど解明されていると思ったので、大学で物理を研究するって何するんだろうとずっと疑問でした。大学で実際の研究現場に足を踏み入れることで、物理でもまだまだ研究することがあるということがわかりました。
ー大学教員をしていてどんな時にやりがいを感じますか。
研究では自分で実験を計画して上手くいった時にやりがいを感じます。また、分からなかったことが分かるようになり、自分の成長を感じられる時は、やはりやりがいを感じますね。大学では、物理に限らず、研究などでのディスカッションを通じて、今まで分からなかったことが分かることがあります。このように何を学ぶにしても、しばらく「分からんなあ」と思った後に、みんなから話を聞いたり、本を読んだりして「あっ、そういうことか」と腑に落ちる時はすごく充足感が得られます。あと、自分の行いを通じて人が喜んでくれれば単純に嬉しいです。一人で研究をして喜んでいるよりは、授業を工夫してみんなから「分かりやすくて、勉強になりました」という反応があればすごく嬉しいですね。
ー学生時代の興味や挑戦したこと、頑張ったことは何ですか。
物理学は、体系立っていて理論がしっかりあるので、学んでいてとても面白かったです。手足を動かして実験をするのも好きでした。あとは、自分が知らないことを知りたいという思いは昔からずっとありますね。学問分野でいう“チャレンジ”とは、まだ誰もやっていないことをやってみるということだと思っています。学生時代は、そういう挑戦をして、何度も失敗を重ねてきました。でも、たまにうまくいくこともあります。そこからさらに、どういう時にうまくいくのかを調べたりするのはとても楽しいことでした。もうすでに誰かがやっているようなことをやるのではなくて、誰も手をつけていないことにチャレンジするということは、最先端の研究の価値にも繋がると思います。
他には、大学の柔道部に所属していたので、強くなりたい一心でひたすら練習していました。とにかく、どんな場面でも、自分が置かれた環境で全力を尽くすようにしました。
ー総合科学部の魅力について教えてください。
様々な人と気軽に交流できるところじゃないでしょうか。いくら広島大学が総合大学だからとはいえ、各学部間では研究棟の間に距離があるので、他の学部の様々な分野の先生と頻繁に会うわけではありません。ところが、総合科学部では、多種多様な研究分野の先生の研究室が同じ研究棟にあるので交流しやすいなと思います。そういう意味で、総合科学部の建物周辺に様々な分野の先生や学生がいて、友達になり話ができるという環境が総合科学部の魅力ではないでしょうか。
また、総合科学部には既存の枠組みから少し外れたような人たちが集まっているという面もあるので、他には無いような研究をしている先生も多いと思います。だから、何か新しいことにチャレンジをしやすい学部じゃないかなと思います。
教員にとっては、とにかく様々な人がいて、互いに話をする機会が比較的多くあります。研究や授業ではなくて、学部を運営する時には様々な分野の先生や職員の人たちが集まって一緒に何かに取り組みます。このような機会を通じて、他の専門分野の人はこういう考え方をするんだなというのが分かってきます。そして、様々な専門分野の人たちと一緒に何かに取り組むときのコツが徐々に掴めてくるんです。
総合科学部の学生には、何かの専門分野のスペシャリストになるのももちろんいいのですが、様々なスペシャリストたちが集まってプロジェクトを進める時に、広い知識を生かしてまとめ役を担えるような「ジェネラリスト」になってほしいと思います。そういう立場になった時には、総合科学部にいて、〈いろいろな人と集まって何かをした経験〉が役立つんじゃないかと思いますね。そういうところも、魅力だと思います。
ー高校生に向けてメッセージをお願いします。
まず高校生の皆さんに伝えたいことは、『今すぐに役立つことは、すぐに役立たなくなるので、是非長い目で自分を磨いていってください。』ということです。
あとは、様々な分野の読書をするのがいいと思います。例えば、受験勉強で時間は無いかもしれませんが、小説なども含めて様々な分野の読書をする習慣を身につけておくことは力になると思います。文字を読んで、さらにその紹介文を書く。自分が本を読んで感じたことをきちんとアウトプットする練習を日々やっておくといいのかなと。短くてもいいので本を読んだらアウトプットする。その本がどういうことを言っていたかというのを自分なりにまとめてメモをする。将来何らかの仕事に就けば文書でアウトプットすることが多くなります。その時に相手にわかりやすく伝えるということが必要になってきますが、そういう訓練をしておくと、相手に上手く伝える技術も培われると思います。仕事の文書じゃなくても、ブログなどを書く時にも役立ちますよね。何か見たり、聞いたりしたことに対してどういう風に思ったか、自分の想いを文章でまとめる。そういったことをする機会はどんどん増えていくと思います。そのためにも、インプットするという意味で本を読むこと、アウトプットをするという意味で書評を自分で書くこと、これらは数ヶ月で身につくようなものではないので今のうちに習慣にして身につけておくことが大事です。
その方法としては、図書館を利用するのが非常に良いと思います。図書館に行くと自分が興味を持たないような本がいっぱい並んでるのが目に入って、そういう本を手に取るという機会にもなりますし、お金がなくてあまり本が買えない学生でも好きなだけ読むことができるから。それに本を買うお金ができても、家が広くないと本なんか買いまくってたらあふれてしまうのでね。そういう意味では自分の本棚として、図書館を利用するのはすごくいいと思います。人気の本を予約しておいてしばらく経って忘れた頃にやってくるのなんかも、面白いですし。是非図書館を利用してください。
さらに加えて言うと、新聞も毎日読んでください。私は学生の頃読んでなかったですけど。やはり世の中の出来事を知るのは大切ですし、新聞も読む訓練になると思います。
ー最後に大学生に向けてメッセージをお願いします。
大学生には、大学時代にしかできないようなことをしてほしいです。将来の利益になることだけを考えて今を過ごしているのは、つまらないと思うんです。自分の世界を広げるために今やりたいことに熱中し、様々なことを学ぶことが大切だと思います。学ぶというのは、単に授業に出るだけではありません。自分がやりたいことに関連する授業が無ければ、自分で調べて学べば良いと思います。授業が無いけれど、教えてくれそうな先生がいるのであれば、その人を訪ねて教えを請えば、教えてくれるかもしれません。自分がやりたいと思うことがあれば、授業や単位に関係なく、ぜひ打ち込んでみたら良いと思います。学生の時に、もう十分やったと思えるくらい何かに打ち込むことは大切ですね。今、将来何をしたいかわからないというのであれば、色々な人の話を聞いたり、大学の活動に積極的に参加したりして、やりたいことを見つけていく期間にできれば良いと思うんです。就職に良さそうだからというのも大切ですが、授業を受けてみて面白そうだなと思うものがあれば、それを一生懸命やってみるのもいいんじゃないかなと思います。また、大学内に限らず、大学の外にも出て、したいことを探してほしいです。大学生でいる間は、本当に何か打ち込めることを探したり、見つけたりする期間でもあると思います。
まとめ
「スペシャリスト」ではなく、「ジェネラリスト」になれるというのは、総合科学部だからこその特徴かもしれませんね。
直接、人間や地球にやさしい社会を構築できる、というのはとてもやりがいを感じるだろうな、と思いました。
それでは今回の記事はここまでです!
次回の更新もお楽しみに!