地域や博物館との連携【社会探究領域 匹田篤先生】

こんにちは!本日も先生紹介第4弾をお送りします

今回紹介するのは
社会探究領域 社会フィールド研究科目群 匹田篤先生です。

博物館のメディア性や地図のデザインなど、様々な研究をやっていらっしゃいます。

地域と連携した社会研究、その内容をどうぞご覧ください!

博物館のメディア性

ーまず、先生の研究内容について教えてください。

博物館のメディア性という研究をやっています。少し前から、博物館を一つのメディアとしてみようという研究が出てきたんですね。例えば、TVを見て何かを学んだりチャンネルを変えたりする。博物館もそうで、何か展示品を見て満足したり、つまらなかったら次に行ったりと、ものと情報とを来館者が取捨選択したりすることをメディア性といいます。マスメディアと同じように人間とものが相互作用しているんですよ。どういう風に並べると人々の理解が進むとか、または次も来たくなるかとかは、単に広告を打てばよいってことじゃなくて、実はそこは満足できる面白い空間じゃないといけない。はやりの言葉で言うと、みんなを感動させるものでないといけない。今は博物館ではなく、広島平和記念館や美術館にも調査に行ったりしてます。

そのテーマに行きついたきっかけは何ですか?

僕はもともと物理学科で宇宙について研究していたんです。それから民間のシンクタンクで働いている時に科学館の設計の話が舞い込んできて、埼玉県の川口市の科学館を見に行く機会があって、これをきっかけに疑問が湧いたんです。理科離れとか言われているけど、なんでみんな理科が嫌いになっていくのかなって。それで、そのころ読んだ本に『博物館体験』(ジョーン・H.フォーク著)っていう本があって、それが僕にとって衝撃的だったんですよね。例えば、博物館ってたくさんものがあってどれをどう理解すればいいか難しい。だけど、その中から2つを選んで比較するとすごく勉強になるんです。このように、博物館はお客さんに視点を提供しなきゃいけない。他にも、僕たちは博物館に行く前からいろいろと情報を得て、博物館に対して期待している。言い換えると、ポスターとかにすごく影響を受けている。それから、博物館に行った後とかもみんなと話をしたりとか、記念に買った博物館のグッズが時々ポロッと出てきたりすると、なんか思い出してうれしかったりもする。そうしてまたその体験を思い出して、他の人に話す。博物館にいる間だけじゃない、そういった一連の行動が博物館体験だって、この本には書かれていたんですね。そういう考えってすごく面白いなと僕は思って、それをきっかけに今の研究を始めたんです。

平和記念資料館にも調査に行っているとおっしゃられていましたが、普通の博物館とは何が違うと感じますか?

平和記念資料館には今年度調査し始めたばかりなので、何をどうしていいのかまだ結論が出ていないですね。祈りの場であることは間違いないけど、祈るだけではない何か次のステップがとても重要だと思ってます。むしろ、未来に対して希望が持てるような終わり方をしないといけない。今そうなっているでしょうか。みんな、折り鶴や被爆者の衣服などを見て、心を痛めて終わってしまう。希望が持てるってどういうことでしょうかね?

核兵器のない未来?いやそんな単純な話でもないと思います…。

そうやってみんなで議論することが大切だと思います。例えば、75年は草木も生えないと言われていたところに初めて花が咲いたという写真に勇気づけられますよね。被爆した木が新しい芽を出そうとしたとか。そういったことに象徴される「僕ら自身も頑張ろう」という気になるような終わり方をした方が良い。もう一つ重要なのは、それを外国の人が分かるのかという話です。日本人は毎年8月6日に広島のセレモニーを見るし、広島と言えば原爆という風に勉強する。でも、アメリカ人を何も考えずに広島の平和記念資料館に連れて行ったときどんな気持ちになるでしょうか。行く前にすごくビビるんじゃないか。「お前のせいだ」って言われかねないって。そういうことを僕らは考えずに彼らを連れて行ってしまうんだけど、本当はすごく残酷なことをしているんじゃないかと思います。僕らは今アメリカに対して敵意を持っていないし、確かに原爆を落としたのはアメリカかもしれないけど、仕返しをしてやろうという気持ちはないわけです。でも、落とした方からしたら、もしかしたらそういう懸念があるかもしれない。そのために、平和記念資料館の前に、まず広島とアメリカの関係について説明してから入らないといけないんじゃないかなと思います。前提条件が違うとか、今はそういうことに問題意識を持っています。

 他にも、僕のゼミでは地図のデザインを扱っています。主に紙や看板の地図とかをやっていて、この地図も、僕はコミュニケーションツールとして考えているんです。地域の人と刊行者の間のコミュニケーションが地図によって生まれたらいいなって思う。色合い、ピクトグラム、フォントなどその地域にあったものじゃないといけないんです。だから、広島市内の中心部をみんなが歩きたくなるような地図ってどんなものかっていうのを研究しています。

アイデンティティ?

その街のどこをアピールしたいかによって、地図は変わってくるのですか?

 新しい街を作るんだったら、なりたい姿でいいと思います。だけど、たいていの街は歴史を持っていますよね。だから、変わらないものは何かとを考えていくと、地図上の色や文字が決まる。自分たちの街であればあるほど生い立ちっていうのは気になってくる。番組で取り上げる時にも自分たちの街であれば面白いですよね。行ったことのない街のブラタモリはあんまり面白くない。それはアイデンティティとすごく深い関係があるからだと思います。でも、意外と僕たちは自分たちの生まれた街がどういう風に出来上がってきたのかということを知らなかったりする。そういうことに興味を持ってもらって「私たちの街って昔からこうだよね」ってみんなが言えるようになると街の魅力がすごく上がる。その結果、一つとして地図のデザインが出来上がってくるんじゃないかなと思います。そういう、みんなが持っている街の共有の財産というものを再認識することにすごく興味があります。簡単に言えばその都市の情報ですね。名所を新しく作らなくても、地味な所でも、みんなが「昔ここで何々があったよね」とか「誰々が戦ったよね」とか、そういう話があると、今は何にもなくてもそこで語られますよね。時間が経つと忘れてしまうことだけど、それをみんなで語り継いでいくことが面白いと思います。でも、それは良いことだけじゃなくって、つらい記憶、戦争だけでなく、土砂災害のこととかも語り継いでいかなければいけないんです。そういうことは、みんな出来れば思い出したくないし、声にも出したくない。でも、それを忘れちゃうと次の人が同じ被害に遭ってしまう。被害に遭わないためにもう一度勇気を出してというか、頑張ってみんなに伝えなきゃいけないんですね。そういった、リスクコミュニケーションや都市の魅力ということをやってます。怖がらせるだけじゃみんな同じことになってしまう。

ひとり旅

先生はどのような学生生活を送りましたか?

 大学2年生のときに一人旅に目覚めたんですね。きっかけはすごく単純で、北海道に友達と行くつもりだったんだけど、前日になって急に友達が行けなくなったんです。出発当日にとりあえずその友達と一緒にご飯を食べて、じゃあこれから僕いくからって言ったんです。その友達を悔しがらせたかったんですね(笑)。それから一人で出かけて10日間くらいうろうろしていました。一人で行くってことは実はすごく勇気がいるんだけど、その一人で行く気楽さだとか、一人だからこそ現地の人と話をするし、そういう自由さっていうものに目覚めたんです。その自由さが僕を一人旅にさせた一番の大きな原動力ですね。旅をしているといろいろな生き方をしている人がいるなぁって感じました。豊かさって言ってもいろいろな豊かさがある。日本に住んでいると、割とどこの街も似たような街になってしまうと思いがちだったんですね。それでも、みんなが楽しいと思っていることが国によって違ったりだとか、人生の楽しみは人によって違うんだなぁってことをすごく感じました。生き方は一つのはかりでは測れないということですよね。

どういった流れで教員になられましたか?

 民間会社にいるときに、腕試しだと思って広島大学の応募に出してみろといわれて、運良く受かってしまったんです。それから二年で元の職に戻るつもりが、面白くなっちゃって。その頃は大学と地域を結ぶ地域連携の仕事をしていたので、総科ではなかったんですけど、だんだんとメディアを教えていることが評価されて、総科の教員として採用されました。僕のようなキャリアパスはまだ少数派だし、僕ももう一遍おなじように生きるのは、難しい。しかもこれがベストかどうかもわからない。だから、ただ目前に与えられた課題を面白がっていたら今に至っただけですかね。

ー最後に総科生へのメッセージをお願いします。

一人の時間を大切にしてほしいですね。一人の時間って自分を高めることができると思うので、本を読んだり妄想したりする。そういう時間って友達といるときにはなかなか訪れません。だから一人の時間にどんどん妄想してほしいし、どんどん読書してほしいです。そうやって自分を磨いていくって作業をしてほしいと思っています。
僕もそうだったんだけど、大学の最初の頃って一人は負け犬・寂しい人みたいに思われますよね。でも本当は寂しくないです。だって一人だと知らない人としゃべるチャンスがある。二人以上いると他人からしゃべりかけられないですよね?一人旅同士ってそこで結構コミュニケーションが生まれます。だから、一人でいるっていうことは自由なんだっていう風に早く気が付いてほしいなって思いますね。独りぼっちとか言わないでください。それでも寂しくなったらこの研究室にコーヒーでも飲みにくればいいと思います。

まとめ

 博物館や地図を通して地域を研究しコミュニケーションをとる、とても興味深いものだなあと思いました。自分たちが知らない自分の街の魅力、それをもっともっと探して、たくさんの人と共有できたら今住んでいる街をさらに愛せそうですね。

また、友達と過ごす時間ももちろん楽しいですが一人の時間も価値のある大切なものなんだということに改めて気づかされました。

それでは今回の記事はここまでです!次回の更新もお楽しみに!!